吹田 良平
Ryouhei Suita

株式会社アーキネティクス代表取締役
『MEZZANINE』 編集長

髙梨 雄二郎
Yujiro Takanashi

一般社団法人御堂筋まちづくりネットワーク
事務局長(株式会社竹中工務店 特任参与)

澤田 充
Mitsuru Sawada

株式会社ケイオス
代表取締役

第三回テーマ

企業とベンチャーをつなぐエリマネの手腕が問われる時代。

澤田 最近では大企業だけでなくカフェや飲食店、もっといえば御堂筋から一本入ったあたりのお店もかなり疲弊しているのを感じます。

高梨 久しぶりに訪れると「常連客が在宅勤務になってお客さんが減っている」とどこも元気がなくて。

澤田 都市にある商店は、パンデミックにどう対応すべきだと思われますか?

吹田 これはコワーキングスペースの話とも関係します。たとえば連携を前提としたカジュアルなスタンスではじまったコワーキングスペースでも、あまり成果は得られませんでした。大企業のオープンイノベーション用施設も、残念ながらあまりうまく機能していないようです。その要因はスペースをつくることで目的達成になっているからではないでしょうか。

髙梨 商業施設同様、できてからがスタートですよね。

吹田 もちろん専用の場所をつくることは大切です。いっぽうで街にある既存の飲食店を使うというやり方もある。夜しか開けていない店ならデイタイム、終日営業の店には、そういう目的に限定した一定枠を設けることで初対面の人との出会いや連携への抵抗をもっと下げられるかもしれません。普段使いの店ならば敷居を感じないし、アンオフィシャルな会話も弾みます。一軒や二軒で開催しても臨界点には達しないので、御堂筋まちづくりネットワークのような組織が各店に対して働きかけてルール化する。それがイノベーションを起こすための最初のステップです。

 エリアマネジメント団体(以下エリマネ団体)が担うという発想はとても興味深い。お世話になっている店を一緒になって元気にしていけるのは重要なことですから。たとえばエリマネ団体がテイクアウトの情報を配信したり、沿道外のお店も出店して販売できるスペースを壁面後退部分に開設したり。それにプラスして吹田さんの言われるような方法で、お店のにぎわいとオープンイノベーションが両立できるのが理想ですね。

澤田 お店には人の匂いがありますよね。人のぬくもりがあるところじゃないと居心地は良くないですから。

吹田 同感です。先ほど申し上げたように、今や街がオフィスなのですから、エリマネ団体が、企業の垣根を超えた接触機会を積極的につくるのが重要だと思います。私どもは今、そのためのアプリを開発中です。そういうものを導入していろんな人と会って対話、議論する環境をお膳立てするのがエリマネのこれからの仕事。それが都市純化の<STEP1>「知的資源との接触機会を増やす」です。

澤田 東京に書籍関連企業が運営するコワーキングスペースがあって、隣にスターバックスがあるんです。面白かったのが、同じ人がこのふたつを使い分けている点。運営する側はそれぞれがコワーキングですよ、カフェですよといっていても、利用者からすれば関係なく気分で使い分けてる。そういう選択肢がある=多様性のある街ならば、とりあえず行ってみようとなる。

 施設をつくる側、つまり送り手側の思惑をすっ飛ばしたほうが面白い。

澤田 だから新しいことでスタートアップしようという人が出てくる。スタートアップしようとする人は、既存のお仕着せが嫌ではじめるわけで。うまくいくお店って、半分くらいが想定外の使い方をされているときに成功したといえるじゃないかな。

高梨 お客さんが、自分なりの使い方を見つけられたことになりますからね。

澤田 それをぼくたちは「ハッピーミステイク」と呼んでいるんです。自分が思った使い方じゃない、誤った使い方だけどハッピー。そんなハッピーミステイクが起こる場所こそ、プレイスメイキングの肝かなという気がします。自分のつくった空間でハッピーミステイクが次々起こることを喜ばしいと思える柔軟なスタンスこそが、これからの時代に求められることかなと。

吹田 私はそれをカジュアルコリジョン、“気安い衝突”と呼んでいます。では衝突の次の<STEP2>はというと、先ほど髙梨さんからご紹介のあった大企業が設けているオープンラボやイノベーションスペースの活用です。たとえば“衝突”から具体的な“協業”へと発展しやすいように、各施設毎にフィンテック、IOT、フードテック、AIとかテーマを割り振ってみることで知的資源が結集・集積しやすくなって、大企業とベンチャーとのコンバージョンレートもぐっと高まるのではないでしょうか。これは欧米ではプロワーキングスペースと呼ばれて注目されています。既存のラボを用いた期間限定の実験でもいいので運用上の工夫をして、協業機会を増やす。これが<STEP2>です。さらに次の段階ではエリマネがビッグデータを扱い、それをベンチャーにガンガン提供する。さらに実証実験を奨励する。すると「実験できるじゃん!御堂筋」みたいなムードが醸成されて、チャレンジ精神旺盛なベンチャーたちが集まってくる。挑戦する者は挑戦している街が大好きだからです。

 それめちゃくちゃ面白い。エリマネだからビッグデータの管理ができるし、POC(Proof of Concept=概念実証)ができるというわけですよね。

吹田 はい。そういった「ベンチャー・フレンドリー」な環境づくりが、都市純化の<STEP3>に当たります。

髙梨 コワーキングスペースのなかにはサロン的なものもありますが、なかなか貸し会議室的な使い方を越えていません。ここにエリマネ団体が関与することで、当社であれば建築系のテーマを設けてスタートアップ企業とオープンイノベーションを起こす。そのようなスペースが集まれば、まさに御堂筋の都市純化につながりますね。

澤田 それぞれが持つデータの情報交換をされてもいいですよね。インフラも一社集中ではなく各社が持っている。そういう意味では御堂筋は本当にダイバーシティ。今の時流にあっているから可能性もある。

吹田 御堂筋のインフラは整った。いよいよ攻めに行こうというフェーズですね。なおさらエリマネの腕力、構想力、統治能力が問われる。エリマネが接触機会、協業機会、実証実験機会をどんどんつくって街に放り込んでいく。実現したら、東京なんてすっ飛ばしてすぐに世界に並びますよ。

髙梨 エリマネ団体にも3種類ほどあって。ひとつは大規模地権者が主体となっている団体、ふたつめは地権者が小規模で商店街やその店主が集まる団体。もうひとつは御堂筋ネットワークのような企業が集まったもの。

 特徴を活かしたエリマネの手法があるんですか。

髙梨 小規模地権者のものに比べると企業が集まった団体は、意思統一もしやすく、かつ一定の合意性のなかでものごとが進められます。さらに御堂筋はストリート型なので、どの地権者も同じようなスペースを所有しており、いい意味での均一性がある。

吹田 機は熟しましたね。御堂筋は立派なインフラが揃っていて、そこに運用のレイヤーを乗っけてインフラを活用すれば、2025年の万博がさらに意味深いものになる。仮設実験空間の万博会場よりもリアルな街である御堂筋が舞台の方が、Society 5.0の実験場としてユニークだし、インパクトもデカい。世界に向けた格好のシティプロモーションの機会になるでしょう。「イノベーションディストリクト、御堂筋」としてね。

 しかも既成市街地で社会実装したイノベーションを具体化できるチャンスがありますから。

吹田 創造している人は創造している街が好きなんです。だから世界中の面白い連中が注目するように、街自体がクリエイティブしている姿を見せることが大切なんです。

 今回の万博は夢洲だけが会場ではなく、御堂筋も万博のために使われます。2025年には側道が車道ではなく、人が行き来できるようになっている。そのときに都市空間のあり方や使われ方を実装した形でお見せできれば、強いインパクトを残せますね。 

澤田 コワーキングやエリマネ、都市といったキーワードが出ましたが、これからの時代はそれぞれの土地の特徴を自分たちが知ってものをつくっていくのが重要なんでしょうね。しくみをつくってあげれば、一緒に頑張ろうと言ってくれる時代にもなっている。このコロナの時代もポジティブに考えられることいっぱいある。それを考えられる人や街が、アフターコロナの時代を一歩二歩リードするんじゃないでしょうか。

Profile

吹田良平
株式会社アーキネティクス代表取締役
『MEZZANINE』編集長

1963年生まれ。大学卒業後、浜野総合研究所を経て、2003年、都市を対象にプレイスメイキングとプリントメイキングを行うアーキネティクスを設立。都市開発、商業開発等の構想策定と関連する内容の出版物編集・制作を行う。おもな実績に渋谷QFRONT、『北仲BRICK & WHITE experience』編集制作、 『日本ショッピングセンター ハンドブック』(共著)、『グリーンネイバーフッド』などがある。2017年より都市をテーマとした新雑誌『MEZZANINE』を発刊。

髙梨雄二郎
一般社団法人御堂筋まちづくりネットワーク 事務局長
(株式会社竹中工務店 特任参与)

1958年生まれ。1982年株式会社竹中工務店入社。設計部門にて事務所ビル、ホテルなどの設計に携わった後、1986年より開発計画本部にて多くの開発プロジェクトに従事。2013年開発計画本部長(西日本担当)、2016年役員補佐を経て2019年より現職。2010年からは一般社団法人御堂筋まちづくりネットワーク事務局長としてエリアマネジメントに携わり、2019年からは一般社団法人大阪ビジネスパーク協議会の運営委員長をエリマネ業務として兼務。

澤田充
株式会社ケイオス 代表取締役

株式会社リクルートを経て1993年に独立。街づくりや街ブランディングを業務とする株式会社ケイオスを設立。過去から現在、そして未来に伝えていく開発、生活者の視点を大切にした「くらす」人のための場としての街づくりを実践している。淀屋橋WEST、北船場くらぶ、北船場茶論、淀屋橋odona、本町ガーデンシティ、グランフロント大阪、新丸の内ビルディング、グランサンクタス淀屋橋、北浜長屋、ホテルユニゾ大阪淀屋橋、KITTEなど数多くのプロジェクトに携わり、御堂筋まちづくりネットワークにぎわい創出部会コーディネーターも務める。

都市で「働く」意味を問いなおす時期が来た。
第一回テーマ

都市で「働く」意味を問いなおす時期が来た。

コロナ禍でリモートワークが進み、ベットタウンに「働く」という機能が加わりつつあります。都心の会社スペースは、今度どのような役割を果たすのでしょうか。

御堂筋が都市としてバージョンアップするために。
第二回テーマ

御堂筋が都市としてバージョンアップするために。

コロナ以前、都市のにぎわいは時間やお金の「消費」をともなうものでした。これからは「創造」によるにぎわいが肝要だと語る吹田氏。その所以は何なのでしょうか。

企業とベンチャーをつなぐエリマネの手腕が問われる時代。
第三回テーマ

企業とベンチャーをつなぐエリマネの手腕が問われる時代。

エリマネの手腕で、大企業とベンチャーが垣根を超えてつながる街。そこではどのようなイノベーションが生まれ、都市がどう「純化」していくのでしょうか。