吹田 良平
Ryouhei Suita

株式会社アーキネティクス代表取締役
『MEZZANINE』 編集長

髙梨 雄二郎
Yujiro Takanashi

一般社団法人御堂筋まちづくりネットワーク
事務局長(株式会社竹中工務店 特任参与)

澤田 充
Mitsuru Sawada

株式会社ケイオス
代表取締役

第一回テーマ

都市で「働く」意味を問いなおす時期が来た。

澤田 まずは「御堂筋まちづくりネットワーク」を運営する髙梨さんから御堂筋の現状、この場所で『御堂筋ピクニック』をはじめ、どういうことをやっているかお話ください。 

髙梨 御堂筋は3年前に80周年を迎えました。そこで大阪における御堂筋のメインストリートとしての位置づけが高まったという背景があります。最近では壁面後退空間として、道路境界線から建物を約4mセットバックさせたことで、御堂筋に面した非常に広々とした空間が生ました。この空間で飲食やライブなどを楽しめるイベント『御堂筋ピクニック』を他のイベントと連携して開催しています。

澤田 『御堂筋ピクニック』は、2012年に企画してはじめました。ちょうど御堂筋のデザインガイドラインの変更があり、セットバック空間を利用して、御堂筋に「にぎわい」を創出できないかということからスタート。「御堂筋をただの通りとしてだけでなく、上質なにぎわいのもと滞在できる場所にしたい」、通り過ぎるのではなく滞在して楽しんでもらいたいとの思いからピクニックとネーミングしました。更に集まってくださる人にもこだわりました。つまり質も大切にしているということです。

髙梨 それが定着し、今も継続して開催できているというのが、エリアマネジメント活動(以下エリマネ活動)の流れのなかでは大きいですね。現在、淀屋橋から本町の東側では、このセットバック空間が連なったエリアが生まれはじめています。

吹田 見事な街のスカイラインですね。

髙梨 その昔の御堂筋の北エリアは金融街で午後3時を過ぎるとシャッターが下り、土日は人気のない街でした。それが少しづつ1階にお店ができて平日でも朝から夜までオフィスワーカーや来街者が通り、週末も人がそぞろ歩くというライフスタイルが生まれつつあります。

それは『御堂筋ピクニック』だけでなく、建物のなかの機能がにじみでるようなオープンカフェのような形態も増え、さらにオフィスオーナーや街の人たちの気運のようなものが重なってエリマネ活動として醸成されたものです。

澤田 吹田さんは都市のありかたを探求された著書やマガジンを発刊されていますが、「コロナ禍における街の役割」についてどのようにとらえていますか。

吹田 何世紀も前から、都市の脅威というのは戦争でありテロや犯罪であり、パンデミックでした。歴史を鑑みれば都市はそれらを見事克服して、現在があるわけです。もちろん今は大変ですが喉元過ぎればなんとやらで、ワクチンが開発され人々にゆきわたったあかつきには、私たちは数年前のパンデミックを記憶していないように、また活動しますよ。

髙梨 これも長い歴史で見ればよくあるエピソード、過去に経験してきたもののひとつとなると。

吹田 そうです。たとえば14世紀ヨーロッパで流行ったペストでは、ヨーロッパの人口の約1/3を失った。しかし結果として下水道が整備されました。

また今からちょうど100年前、1920年頃に猛威を振るったスペイン風邪では約4000万人が亡くなっています。そのあと何が起こったかというと、フランスで狂騒の20年と呼ばれる黄金時代の到来です。世界各地から芸術家たちがパリに集まり、現代ヨーロッパ文化の基礎とも言うべき巨大なうねりを生み出した。あるいはN.Y.の治安がいちばんヤバかった70年代後半から80年代初頭、州は財政破綻の寸前にまで陥って暴動や犯罪が蔓延した。この時は、20世紀音楽の最大の発明であるHIPHOPが生まれます。

澤田 インフラが整い、いろんな文化が花開いたと。

吹田 もっといえば2001年の911テロ。莫大な経済損失を受けましたが、これを経てアメリカは2009年から今日に至るまでかつてないほどの好景気を続けています。つまり都市はさまざまな脅威を乗り越えて、経済発展するためのエンジンであり続けるものなのです。

澤田 何も変わらないと。

吹田 まあそれは極論ですが(笑)。もう少し街にフォーカスすると部分部分の質の変容があり、それがポイントになると思います。たとえばベッドタウン。これまでは文字通りの「寝る」ための場所だった。でもコロナ禍でリモートワークが進むことで、そこに「働く」という機能が加わりました。選択肢が増えることで、まずベッドタウンの質が変容します。その結果CBDはどうかというと。

澤田 CBDというのは、central business districtのことで街や都市のオフィスや店舗などが特に集積している地区のことですね。

吹田 そうです。先ほどのようにベッドタウンの機能が変容すると、当然ながらCBDの役割も変わる必要が出てくる。ルーティンやソロワークは家や近所のカフェでできるわけですから、都心における「働く」ことの意味を考え直さなきゃいけない。そもそも都市とは、多様な人が存在し相互に影響し合う触媒のようなものです。そういった都市本来の役割を取り戻して、消費の場よりも何かを創造する場所へと機能を純化させなければならない。

髙梨 本来、都市は創造的な場だったが、産業革命以降いろんな人が働きに来るようになり変化した。それが今回のパンデミックをきっかけに純化していくと。

吹田 はい。消費するだけでなく、創造する格好の舞台が都市なのです。それが都市の純化。ぼくはクリエイティブ・トランスフォーメーションと言っているんですけど。ようやく都市が本来の機能を発揮すべき時がきた。パンデミックが、その流れを加速するきっかけになった気がします。

澤田 そういう意味で、コロナ禍の前後を比較しての御堂筋の取り組みの違いとか、今後に向けて考えられていることはありますか。

髙梨 まず郊外にもワークする場ができてくる。住宅やカフェで仕事する以外にも、家から出て駅に近い場所、たとえば千里中央や西宮北口、茨木といった郊外の拠点となるところにサテライトオフィスやコワーキングスペースをつくることをデベロッパーも考えはじめています。これが都心の会社スペースと連携し、ワーカーはそれを使い分ける時代になると思います。

澤田 それがワークの場だった御堂筋に、どんな影響をもたらしますか?

髙梨 都市の機能が純化する、御堂筋のひとつの方向性としてはイノベーティブだったりコミュニケーション機能の強化があげられます。単純にワークするだけなら自宅や駅前の拠点でいい、対して都市はギャザリングつまり混ざり合う機能を高度に強化していくと思います。私たちが活動している御堂筋の北エリアはオフィス系機能が非常に強い。そういう意味でも吹田さんのいわれる「都市機能の純化」、その典型的な動きがこのエリアで進んでいくのでないとかと期待しています。

澤田 御堂筋の姿も変わりますよね。

髙梨 そういうときに建物の中だけではなく、セットバックした壁面後退空間が活かされるでしょう。2025年の万博に向けて、緩速車線と両脇の緑地帯を再編し、歩道とともにゆとりのある空間に変わる予定です。つまり車がビュンビュン走る場所ではなくなる。歩行者や自転車が快適に過ごせる空間を建物と道路との間にリニアなまとまった空間として持つことは、御堂筋が大阪で特別なエリアとなり、都市機能が純化するときに大きなポテンシャルとなるはずです。

Profile

吹田良平
株式会社アーキネティクス代表取締役
『MEZZANINE』編集長

1963年生まれ。大学卒業後、浜野総合研究所を経て、2003年、都市を対象にプレイスメイキングとプリントメイキングを行うアーキネティクスを設立。都市開発、商業開発等の構想策定と関連する内容の出版物編集・制作を行う。おもな実績に渋谷QFRONT、『北仲BRICK & WHITE experience』編集制作、 『日本ショッピングセンター ハンドブック』(共著)、『グリーンネイバーフッド』などがある。2017年より都市をテーマとした新雑誌『MEZZANINE』を発刊。

髙梨雄二郎
一般社団法人御堂筋まちづくりネットワーク 事務局長
(株式会社竹中工務店 特任参与)

1958年生まれ。1982年株式会社竹中工務店入社。設計部門にて事務所ビル、ホテルなどの設計に携わった後、1986年より開発計画本部にて多くの開発プロジェクトに従事。2013年開発計画本部長(西日本担当)、2016年役員補佐を経て2019年より現職。2010年からは一般社団法人御堂筋まちづくりネットワーク事務局長としてエリアマネジメントに携わり、2019年からは一般社団法人大阪ビジネスパーク協議会の運営委員長をエリマネ業務として兼務。

澤田充
株式会社ケイオス 代表取締役

株式会社リクルートを経て1993年に独立。街づくりや街ブランディングを業務とする株式会社ケイオスを設立。過去から現在、そして未来に伝えていく開発、生活者の視点を大切にした「くらす」人のための場としての街づくりを実践している。淀屋橋WEST、北船場くらぶ、北船場茶論、淀屋橋odona、本町ガーデンシティ、グランフロント大阪、新丸の内ビルディング、グランサンクタス淀屋橋、北浜長屋、ホテルユニゾ大阪淀屋橋、KITTEなど数多くのプロジェクトに携わり、御堂筋まちづくりネットワークにぎわい創出部会コーディネーターも務める。

都市で「働く」意味を問いなおす時期が来た。
第一回テーマ

都市で「働く」意味を問いなおす時期が来た。

コロナ禍でリモートワークが進み、ベットタウンに「働く」という機能が加わりつつあります。都心の会社スペースは、今度どのような役割を果たすのでしょうか。

御堂筋が都市としてバージョンアップするために。
第二回テーマ

御堂筋が都市としてバージョンアップするために。

コロナ以前、都市のにぎわいは時間やお金の「消費」をともなうものでした。これからは「創造」によるにぎわいが肝要だと語る吹田氏。その所以は何なのでしょうか。

企業とベンチャーをつなぐエリマネの手腕が問われる時代。
第三回テーマ

企業とベンチャーをつなぐエリマネの手腕が問われる時代。

エリマネの手腕で、大企業とベンチャーが垣根を超えてつながる街。そこではどのようなイノベーションが生まれ、都市がどう「純化」していくのでしょうか。