吹田 良平
Ryouhei Suita

株式会社アーキネティクス代表取締役
『MEZZANINE』 編集長

髙梨 雄二郎
Yujiro Takanashi

一般社団法人御堂筋まちづくりネットワーク
事務局長(株式会社竹中工務店 特任参与)

澤田 充
Mitsuru Sawada

株式会社ケイオス
代表取締役

第二回テーマ

御堂筋が都市としてバージョンアップするために。

澤田 ここ10年ほどで御堂筋のとらえ方が大きく変わり、都市のあり方も変化しています。そこに新型コロナウィルスによるパンデミックが起こった。オフィス街に人が集まって−私は「上質な」という言葉を使っているのですが−そういうにぎわいが生まれた。吹田さんのお話をお聞きしているとそれプラス、違う次元の編集軸のようなものがあって「都市のにぎわいって何?」「御堂筋に集まる意味って何?」ということを考える時期が早まった気がします。

吹田 まさにおっしゃるとおりです。コロナ以前のCBDには“働く場所”というもっともらしい存在理由がありました。もうひとつは、時間やお金を“消費する場所”です。これまでの都市のにぎわいとは、あくまで消費にともなう「にぎわい」だったわけです。

 消費によるつながりですね。

吹田 はい。結論から言うと、これからは創造によるつながり、創造にともなう「にぎわい」に質的変容することが肝要です。「都市の純化」という観点からいえば、「働く」側面のバージョンアップが求められます。パンデミック以前から日本は課題先進国と言われていたわけじゃないですか。

髙梨 高齢化社会で生産性は低いし。都市における生産性向上が、より必要になってきています。

吹田 そうです。生産性というのは分母が時間、あるいは人工。分子が付加価値ですね。生産性を高めるにはこの付加価値をどうやって上げるか。それには新しい価値創造しかない。もうひとつは、社会課題先進国の日本が、どうやってこれからのプロスペリティ(繁栄・成功)を達成していくか。これは、課題を“金”とみなして大切に扱い、ベンチャーの力を借りながらイノベーションによって、社会課題解決と経済発展を両立させるしかない。

澤田 これがなかなか難しい。

吹田 ええ。イノベーションをどうやって起こすか。本当のゼロイチの価値創造というのは神にしかできない。私たち人間にできるのは、既存知と既存知の組み合わせによる価値創造です。そのためには積極的に質の高い知的資源と接触しなきゃならない。互いのナレッジを組み合わせて掛け算して、新しい化学反応を起こしていくしかない。

髙梨 それができれば街が大きく飛躍できる気がします。

吹田 はい。そのためには業界や企業の枠を超えて知的資源同士が出会う必要があります。

澤田 逆に言うと、結びつきというのはネット上でもできると思うんです。セレンディピティのようなもの、あるいはダイバーシティといわれるように、いろんなものが混ざり合うことが頻繁におこなわれるのが都市の意味。そこから付加価値が生まれ生産性につながる。

吹田 そうそう。ですから生産する場は自らの会社内ではなく、ダイバーシティが利いている街自体になる。つまり、現代は街がオフィスになる時代なのです。

澤田 なるほど。 

吹田 2年前のアマゾン第2本社プロジェクトの時も、彼らが選ぶ都市は、優秀な才能が多い街、そういう連中を多く輩出する大学のある街、あるいは社員にとってのアメニティ・キャピタルの豊富な街でした。つまり街の質が問われている。いよいよそんな時代になってきたといえます。

澤田 『MEZZANINE』でも取り上げられていましたね。その話はとても示唆に富んでいると思います。御堂筋で考えると、沿道企業が個々に活動されていたのを、髙梨さんたちが御堂筋ネットワークとして集められたことが先駆けになっています。

 それもたんに集まるだけじゃなく、個人が会社の枠を越えて話ができていることが重要だと思います。

澤田 そういう集まり、つながり、セレンディピティが頻発して起こり、異業種の芽が集まってくる。そういうことが同時多発におこなわれる街が、これからは生き延びる。ではそのために御堂筋はどう貢献できるのか?どう活用できるかという観点でものを考えていかないと。今までの「人が集まります、つながります、にぎわいますよ」からバージョンアップする施策でないと、吹田さんがおっしゃったことは実現できない。

吹田 実現したら、東京なんてすっ飛ばして、N.Y.、ロンドン、パリ、御堂筋と並ぶ世界になりますよ。

 それでいうと今、大阪の都市魅力度ランキングは上がっていて。ひとつには大都市の割に郊外の住宅地と都心の職場の距離の近さがあげられます。通勤時間が30分~1時間程度ですから。

吹田 首都圏から見ると1/2、1/3の時間ですよね。たしかに魅力的です。

 先ほどの話に戻ると、御堂筋の北側には大手企業が多く、それら企業が社内にコワーキングスペースをつくっています。新たなビルにも地権者がコワーキングスペースをつくる動きもあり、多くのビルにそういったスペースが蓄積されている状況。さらに2025年大阪万博を踏まえて、道路空間が再編されて、外の空間がコワーキング&イノベーティブな出会いを見つける場にもなっていきます。

吹田 今、まるで規定演技のように大手企業がコワーキングスペースをつくってますよね。それらはうまく機能しているのでしょうか。

 私が思うにワーカーというのは、さまざまな企業の人に会うことでイノベーティブになれるものなんです。だけど日本人は異業種の人と会うと構えてしまうという矛盾もあって。ですから今までのワークスタイルからまず一歩踏み出せるようなコワーキングスペースで、スタートアップやベンチャー企業が集まれる場所を共存できれば、質の変化が生まれてくると思います。

そしてその質が変化した御堂筋と、先程話した郊外の住宅地や、コワーキングスペースがうまく使い分けられるようになると思います。

澤田 さらにいえば御堂筋に多く存在する大企業と個人がつながるようなしくみがあればいいですね。スタートアップの人がもっと気軽に出会えるような。それがまだ不足している要素ですね。私自身は28年前に独立企業したんですが、当時はエスタブリッシュメントな御堂筋村というものがあって、それぞれがスタンドアローンで存在していた。そこにはなかなか入り込めなかったですから(笑)。

吹田 確固たる格差があったわけだ(笑)。

澤田 その頃にくらべればずいぶん柔らかくなった。カフェやコワーキングスペースができて、形はある程度整った。次はそこを上手く活用して動きまわれる人間、媒介となる運動量の多いミッドフィルダーのような人が、この場所にどれだけ魅力を感じるか。次の時代の御堂筋を考えていくうえでは、そういうクリエイティブな人たちがここに集まるための魅力づけが必要。「にぎわいを創出するターゲットの質」、それを考える時期にきているんじゃないでしょうか。

髙梨 澤田さんが起業された頃に、排他的だった大企業も変わりました。どこも自社だけでやっていくことに限界を感じています。ですから一緒に事業を進められる相手を探すための、コワーキングスペースが次々とつくられているわけです。それが時代の流れもあり、更にコロナ禍が背中を押している状況ともいえます。

Profile

吹田良平
株式会社アーキネティクス代表取締役
『MEZZANINE』編集長

1963年生まれ。大学卒業後、浜野総合研究所を経て、2003年、都市を対象にプレイスメイキングとプリントメイキングを行うアーキネティクスを設立。都市開発、商業開発等の構想策定と関連する内容の出版物編集・制作を行う。おもな実績に渋谷QFRONT、『北仲BRICK & WHITE experience』編集制作、 『日本ショッピングセンター ハンドブック』(共著)、『グリーンネイバーフッド』などがある。2017年より都市をテーマとした新雑誌『MEZZANINE』を発刊。

髙梨雄二郎
一般社団法人御堂筋まちづくりネットワーク 事務局長
(株式会社竹中工務店 特任参与)

1958年生まれ。1982年株式会社竹中工務店入社。設計部門にて事務所ビル、ホテルなどの設計に携わった後、1986年より開発計画本部にて多くの開発プロジェクトに従事。2013年開発計画本部長(西日本担当)、2016年役員補佐を経て2019年より現職。2010年からは一般社団法人御堂筋まちづくりネットワーク事務局長としてエリアマネジメントに携わり、2019年からは一般社団法人大阪ビジネスパーク協議会の運営委員長をエリマネ業務として兼務。

澤田充
株式会社ケイオス 代表取締役

株式会社リクルートを経て1993年に独立。街づくりや街ブランディングを業務とする株式会社ケイオスを設立。過去から現在、そして未来に伝えていく開発、生活者の視点を大切にした「くらす」人のための場としての街づくりを実践している。淀屋橋WEST、北船場くらぶ、北船場茶論、淀屋橋odona、本町ガーデンシティ、グランフロント大阪、新丸の内ビルディング、グランサンクタス淀屋橋、北浜長屋、ホテルユニゾ大阪淀屋橋、KITTEなど数多くのプロジェクトに携わり、御堂筋まちづくりネットワークにぎわい創出部会コーディネーターも務める。

都市で「働く」意味を問いなおす時期が来た。
第一回テーマ

都市で「働く」意味を問いなおす時期が来た。

コロナ禍でリモートワークが進み、ベットタウンに「働く」という機能が加わりつつあります。都心の会社スペースは、今度どのような役割を果たすのでしょうか。

御堂筋が都市としてバージョンアップするために。
第二回テーマ

御堂筋が都市としてバージョンアップするために。

コロナ以前、都市のにぎわいは時間やお金の「消費」をともなうものでした。これからは「創造」によるにぎわいが肝要だと語る吹田氏。その所以は何なのでしょうか。

企業とベンチャーをつなぐエリマネの手腕が問われる時代。
第三回テーマ

企業とベンチャーをつなぐエリマネの手腕が問われる時代。

エリマネの手腕で、大企業とベンチャーが垣根を超えてつながる街。そこではどのようなイノベーションが生まれ、都市がどう「純化」していくのでしょうか。